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大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)11号 判決

大阪府枚方市招提東町一丁目一〇五二番地

控訴人

磯田一枝

右訴訟代理人弁護士

香川公一

同府同市大垣内町二丁目九番九号

被控訴人

枚方税務署長

内田勝康

右訴訟代理人弁護士

森勝治

被控訴人指定代理人

布村重成

中野英生

上田雄彦

後藤洋次郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立)

一  控訴人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人が昭和五三年二月三日控訴人の昭和四九年、同五〇年、同五一年分の各所得税についてなした各更正処分及び過少申告加算税(但し、裁決により変更された後の分)の賦課決定処分をいずれも取り消す。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

(主張、証拠等)

当事者双方の主張、証拠関係等は、左記のほか、原判決の事実摘示に記載するとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一〇枚目表二行目の「年令」を「年分」と改め、同六行目の「別表九記載のとおり」の後に「(同表の「給水設備一式」は、井戸設置工事費、給水塔設置工事費及び配管工事一式をいう)」を挿入する。)。

一  控訴人

1  課税経過について

(一) 被控訴人主張の調査のうち、実際に調査したのは三回であって、その際、夜間営業に関する放言と、「帳簿を見せろ、しかし見せても否認する。総所得で一〇〇〇万円以上の修正をしないと更正する。」旨放言した。

右の如き放言の下での調査は、合理的・合法的な調査の範囲を逸脱していることは明らかであり、このような放言を取消さない限り、納税者が一時的に調査非協力の態度をとったとしても、このことの故に推計による課税をする必要性は認められないというべきである。

(二) 本件の場合、国税庁の税務運営方針の「納税者の納得と説得のうえで行う」努力を全くせず、推計計算による課税がなされたのである。

また、控訴人側が、「家族だけで営業している」旨述べたことはなく、現に被控訴人の調査担当官は、女性従業員を息子の嫁と誤認した証拠もあり、さらに、帳簿、伝票類等少くとも調査当時は存在していたのである。

(三) してみれば、税務運営方針に則った調査が本件で行われておれば、実額調査ができた筈であり、その努力をせずなされた本件各処分は違法として取り消されるべきである。

(四) 仮に、推計計算に基づく課税が許されるとしても、

(1) 右課税計算上採用された「比準同業者」に問題があり(現に、国税不服審判所の裁決によれば、「原処分庁が、総収入金額の算定にあたり、総収入金額に対するコーヒーの売上金額の割合の算定の基礎とした比準同業者について、当審判所がその適否を検討したところ、当該同業者は、その事業所の立地条件等が請求人と類似しない者であることが認められた。」旨指摘しているところである)、さらに、駐車場についてみても、控訴人のそれは、右比準同業者の約八倍も広いのであり、控訴人の事業所(飲食店)は、国道沿いであるから、長距離の大型車輛運転手用ともいえるのに比し、右同業者のそれは、普通乗用車が一〇台程度駐車しうるものにすぎない。

(2) 被控訴人主張の比準同業者は、控訴人の営む営業とは諸条件が異なるのであって、コーヒーの売上高、コーヒー以外の売上高、各その仕入高、等を対比計算すると、控訴人の昭和五八年一一月八日付準備書面添付の別表のとおりであり、到底控訴人のそれと類似性はない(被控訴人主張の同業者は、例えば、「バー」とか「スナック」等としか考えられないものである。)。

2  減価償却・雇人費について

これについては既に主張したが(原判決一〇枚目表一行目から七行目まで)、統計資料は、控訴人及び被控訴人の各提出した統計資料を公平に検討すべきである。

3  当審において甲第一〇号証を提出。

二  被控訴人

1  控訴人の右主張を争う。

2  甲第一〇号証は、官署作成部分の成立を認め、その余は不知。

理由

一  当裁判所は、当審における新たな証拠調べの結果を斟酌しても、控訴人の請求は理由がなく、棄却すべきであると判断する。その理由は、左記のほか、原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する。

1  弁論の全趣旨及びこれにより成立を認めうる甲第一〇号証(官署作成部分について成立に争いがない)によると、

控訴人は、控訴人経営の飲食店「ミミ」の駐車場への自動車出入用進入路(出入とも各八メートル)建設のため、昭和四三年八月七日付で近畿地方建設局長あて「道路工事承認申請書」を提出し、国道一号線の法面切取り及び工作物設置工事の許可申請(道路法二四条)をし、同年一一月四日、「右工事施行部分の維持は申請者がする。」ことを条件にその許可を得、その工事をしたこと、右工事費用は明らかでないこと、が認められ、他にこれに反する証拠はない。

2  右の認定事実からすると、前記のとおり、駐車場のみの舗装費用を推計した被控訴人主張の金額には右取得価額(工事費用)を含まないこと明らかである(なお、右出入用進入路は、控訴人の営業上必要とする構築物であるから、所得税法二条一項一九号により減価償却の対象となる)。

しかし、控訴人主張の金三〇〇万円をそのとおり計算の基礎として算定しても、右の工事費用を含む駐車場の取得価額(駐車場分は舗装費用)は三〇〇万円であり、減価償却の基礎となる金額は二七〇万円、耐用年数一〇年、年分の必要経費算入額は二七万円となる(原判決添付別表九参照)。

したがって、被控訴人主張の減価償却費三五万九七六六円(原判決添付別表六参照。原審の認定した額も同じ)より、二一万〇六〇〇円(右の三五万九七六六円のうち五万九四〇〇円が右駐車場分であるから、前記二七万円と右五万九四〇〇円との差額)多くなること計数上明らかである。そうすると、本件係争各年分の減価償却額は五七万〇三六六円となる。

3  しかるところ、原審が認定した控訴人の本件係争各年分の事業所得金額は原判決添付別表一〇のとおりであり、減価償却額を右のとおり増額して計算しても、本件各更正処分の基礎とされた総所得金額に影響を及ぼさないこと原判決添付別表一の「総所得金額欄」記載の金額と対照し明らかである。

二  してみると、原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山忍 裁判官 河田貢 裁判官矢代利則は転勤のため署名捺印することができない裁判長裁判官 栗山忍)

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